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福岡高等裁判所 昭和42年(う)675号 判決 1968年3月02日

被告人 須藤孝治

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

弁護人稲沢智多夫が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人並びに被告人提出の各控訴趣意書に記載のとおりであり、検察官野田英男が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の検察官竹中知之提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

検察官の控訴趣意第一(法令の解釈適用の誤)について

記録に徴するに、被告人に対する本件公訴事実中、被告人は法定の除外事由がないのに、昭和四一年一〇月三〇日午前九時頃、大分県別府市荘園町一〇組中島勇方において、旧陸軍用一四年式けん銃一丁を所持していたとの事実について、原判決は右けん銃には弾丸発射機能上重要な撃針が欠缺し、撃針発条が正規の部品でなく、事務用器具等のバネを代用品として使用しており、右部分品の製作、なかんずく撃針発条の製作には高度の熱処理設備と技術を要し、巷間の製作所乃至銃砲店等では困難であり、しかも取締法規によつて許可なく部品の製作ができないことが認められる以上、かかるけん銃は銃砲刀剣類所持等取締法第二条第一項にいわゆる「銃砲」には該当しないと解するのが相当であるから、被告人の右けん銃所持は罪とならないとして、被告人に対し無罪を言渡していることが明らかである。

所論によれば、右けん銃には撃針が欠缺し、撃針発条が正規の部品でなく、事務用器具等のバネを代用品として使用しているとしても、右故障は容易に修理することができ、これを修理すれば、右けん銃は弾丸発射の機能を回復し得るに至るものと認められるから、明らかに銃砲刀剣類所持等取締法第二条第一項の「銃砲」に該当するというにある。

よつて検討するに、銃砲刀剣類所持等取締法第二条第一項にいう「銃砲」は「金属性弾丸を発射する機能を有すること」が要件とされているところ、「右弾丸を発射する機能を有する」とは、なんらの故障がなく何時でも弾丸を発射し得る機能を有するもののみを指すのではなく、故障があつても通常の手入または修理を施せば、弾丸発射機能を回復し得るものを含み、しかも銃砲は一発にして貴重な生命を奪う兇器であるから、右弾丸発射機能の回復とは一発でも発射できる程度に機能を回復した場合をも包含するものと解すべきことまさに所論のとおりである。

これを本件についてみるに、大分県警察本部長から別府警察署長宛の「物件鑑定結果について」と題する書面と原審鑑定人広田文夫作成の鑑定書並びに原審証人広田文夫の供述に、当審鑑定人吉富靖隆作成の鑑定書と当審証人吉富靖隆の供述を併せ考察すれば、本件けん銃は旧陸軍用一四年式けん銃で撃針が欠缺し、撃針発条が正規の部品でなく、事務用器具等のバネを代用品として使用していて、そのままでは弾丸発射の機能は全くないこと、しかし右けん銃は撃針と撃針発条を補修すれば、当然に弾丸発射機能を回復するに至ることが明らかである。そして、撃針発条の製作には高度の熱処理設備と技術を要するとしても、これは通常スプリング店において購入し得るが、右けん銃に適合する撃針の製作は、素材として直径一五粍以上、長さ八〇粍以上の鉄棒があれば旋盤の設備のある小鉄工所においても可能であり、その所要日数は約一日で費用も約二、〇〇〇円程度で済むとしても、これを製作し得る者は特に高度の技術と経験を持つている者でなければならず、九州においても数名を数えるに過ぎない状態であり、しかもこれらの人々はいずれも銃砲店に勤務しあるいは銃砲の修理を専門とする者であるから、取締法規による許可なくしてこれを製作するというが如きは通常考えられず、かつかりに旧陸軍用一四年式けん銃の部品を入手するとしても、それぞれの部品に個性があつてどれでも間にあうというものではないから、右けん銃に適合した撃針を入手することは殆んど不可能であるのみでなく、しかも右けん銃に適合した撃針でなければ、代替物を使用しては弾丸を一発も発射し得ないことが認められる。かくのごとく、本件けん銃の発射機能を回復するための前記部品、なかんずく撃針を製作または入手することはまことに困難というべきであつて、とうていこれをもつて通常の手入または修理の範囲に属するものとなすことはできないから、発射機能を回復するために不可欠の撃針等を欠く本件けん銃は銃砲刀剣類所持等取締法第二条第一項にいう「銃砲」に該当しないものと解するのが相当である。

してみると、被告人に対する本件公訴事実中の被告人のけん銃不法所持の点を罪にならないとして、被告人に対し無罪を言渡した原判決は結局正当であつて、原判決にはなんら所論のような法令の解釈適用の過誤は存しない。論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意中第一点(法令の解釈適用の誤)について

所論は、原判示第一の(一)の暴行・傷害の罪と第一の(二)の脅迫の罪並びに第一の(三)の強盗の罪は行為の主体・客体・態様等からみて一連の継続的になされた行為というべきであつて、まさに一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当するというべきところ、原判決が右各罪を併合罪の関係にあるものと認定処断したのは、法令の解釈適用を誤つた違法があるというにある。

しかしながら、刑法第五四条第一項前段の一個の行為にして数個の罪名に触れる場合とは、事物の自然的観察において一個であり、かつ同一の行為が数個の犯罪構成要件に該当し、法律上の観察において数個の犯罪が成立する場合をいうものと解すべきところ、これを本件についてみるに、なるほど原判示第一の(一)の暴行・傷害の罪と第一の(二)の脅迫の罪とはその日時場所をほぼ同一にし、また右暴行・傷害・脅迫の各罪と原判示第一の(三)の強盗の罪とがほぼその行為の主体・客体を同じくし、一連の継続的になさた行為と認め得ることまさに所論のとおりであるが、原判決挙示の関係諸証拠に徴しかつ原判文に照せば、被告人らの右各犯行は各個別の行為であつて、しかも各別毎に各犯罪構成要件に該当するものであることを疑う余地はなく、とうていこれをもつて一個であり、かつ同一の行為が数個の犯罪構成要件に該当する場合であるとなすことができないから、原判決が右各罪を併合罪の関係にあるものと認定処断したことはまことに正当であつて、原判決にはなんら所論のような法令の解釈適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。

被告人の控訴趣意中事実誤認の論旨について

しかし、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示冒頭掲記の事実並びに原判示第一の(三)の強盗の事実を認めるに十分である。そして大田原忠明、浦川利行の検察官に対する各供述調書及び篠原道男の検察官に対する供述調書謄本には信憑性がないとの主張並びに被告人の司法警察員に対する各供述調書には任意性がないとの主張もいずれもこれを認めるに足りるなんらの資料もない。

従つて原判決にはなんら所論のような事実誤認の違法はなく、記録を精査しても、原判決が採証を誤りひいて事実を誤認したことを窺うことができない。論旨は理由がない。

検察官の控訴趣意第二並びに弁護人の控訴趣意第二点及び被告人の控訴趣意中量刑不当の論旨について

しかし本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている被告人の年齢・境遇・前歴・犯罪の情状及び犯罪後の情況等に鑑みるときは、なお被告人所論の被告人に利益な事情を十分に参酌しても、原判決の被告人に対する刑の量定はとうてい重きに過ぎるものということができず、また検察官所論の被告人に不利益な事情を種々考量しても、原判決の被告人に対する刑の量定をもつて軽きに失するものとなすこともできない。すなわち、原判決の刑の量定はまことに相当であつて、これを不当とする事由を発見することができないので、各論旨はいずれも理由がない。

そこで、刑事訴訟法第三九六条に則り本件各控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書に従い被告人をして負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 岡林次郎 山本茂 生田謙二)

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